天然染料(草木染め)で最も有名な染料の一つが「タマネギの皮」です。食品の一部であるうえに、美しい色に染めることができるタマネギの皮は、媒染剤(色止め・発色)が料理でも使う「明礬(ミョウバン)」なので、気軽にキッチンでも染めることができます。インターネット上でも、その染め方が数多く掲載されていますが、今回は“ひとつ屋流ワンポイント”を加えながら“きれいに染める方法”を紹介します。
【きれいに染める方法】
今回、染めてみるのは、2本のストールです。
(染めるものは天然繊維に限ります。)
上がシルク(絹)で下がコットン(綿)です。ともに40×160センチほどの大きさで、両方を合わせた重さが、約200gほどです。※早速ッ!! ここでポイント!! ① 染めるものは、必ず重さを量っておきましょう。後々、いたるところで重さが必要になります。② 染めるものを精練(下記参照)をしておきましょう!!
【精練の方法】
精練とは、染めるものに含まれている汚れや油分、糊などを取り除く下処理のことをいいます。一見、きれいで真新しい布(生地)でも精練は必要です。この作業をしたものと、そうでないものでは染め上がりに随分と差がでます。方法は至って簡単ッ!! 布の重さの30倍ほどの水に洗濯用中性洗剤を適量(いつもの洗濯と同じ割合)を加え、沸騰する直前の温度で1時間ほど炊きます。後は、ふつうにすすいで脱水してください。※はいッ、ここでポイント!! 草木染では、すべての工程でステンレスかホーローの鍋を使ってください。また、その他の道具でも鉄やアルミ、その他の金属鍋は使わないでください。その理由は後述しています。
【地入れ】
精練を終えて一旦 乾かした布の場合、染料の浸透をよくするために「地入れ(じいれ)」と呼ばれる作業を行います。「地入れ」なんていうと、すごい作業のようですが、ただ単に染めるものを30分ほど水に浸けておくだけです。精練後、乾かさずに染める場合、この作業は不要です。
【タマネギの皮で染料を作る】
今回は8リットルの水で20グラムのタマネギの皮を使いました。たった20グラムかと思われるかもしれませんが、集めるとなると、結構な量のマネギを食べないといけません・・・。実際に見ると、これぐらいの量です。Tシャツ1枚を染めるにも同じくらいの量が必要になると思います。ただ、多すぎても美しい色にはなりません。ちなみに、今回は“黄金色を目指していて、皮の量が多すぎると、ベージュや茶色になってしまいます。
20グラムのタマネギの皮に8リットルの水を加え、30分~1時間ほどかけて煮出して染液を作ります。※は~いッ、ここでもポイント!! タマネギの皮を煮出すとき、煮立たせないにように注意しましょう。どの本を見ても、そんなこと書いていないのですが、煮立たせると染液が濁ってしまって、それで染めると染め上がりも濁った色になるような気がしてなりません。なので、僕は煮立たせません。湯のなかでタマネギの皮があまり踊らない程度の温度で、じっくりと煮出します。染液の透明度や色の具合は、下の写真(【タマネギの皮で染める】)をご覧ください。
↓煮立たせず、じっくり色を抽出します。
【タマネギの皮で染める】
いよいよ染色です。まずは煮出したタマネギの皮を目の細かなザルやストレーナーで濾し取って染液(染めるための液)を作ります。これはタマネギの皮を8リットルの水で煮出しているので、ストール1本に対して40倍の染液を用いるということになります。今回は染液に布を浸して染める「浸染(しんせん)」という技法なので、この染液のなかで布をゆったりと泳がしながら染めます。なので、このくらいの量の染液が必要となります。といいつつ、これでも僕は少ないほうだと思います。ただ、これ以上少ないと、染めムラの原因になります。また、ひとつ屋では染料を60℃ほどに温めてから染めています。
↓シルク(絹)のストールを染めています。
↓コットン(綿)のストールを染めています。
上の写真のような状態で、絶えず染液のなかで布を動かしながら10分ほどで染めます。※はいッ、ここでもポイント!! 布を動かす場合は、ただかき混ぜるのではなく、染液のなかで布を広げるようにします。そのとき、菜箸を使うと布に穴を開けてしまうことがあるので、しゃもじ(先の丸いターナー)のようなものを使ってください。
【媒染をする】
ある程度に染まったら(ちなみに、染色に「正解ッ!!」なんて色はありません。あくまで自分が好きな色具合になればOKです)染液から引き上げ、バケツなどに汲んでおいた水に入れて余分な染料を洗い流します。ゴシゴシは洗わず、水のなかで振り洗いする程度です。これを手で軽く絞り、媒染液に浸けます。黄金色に発色させるための媒染剤は「明礬(ミョウバン)」です。スーパーの漬物売場などで売っているものでOKです。これを8リットルのぬるま湯に20グラムを入れてよく溶かし、軽く絞った染めた布を浸します。このときも、染色のときと同様に、均等に媒染液が布に触れることを意識しながら、ときより広げるようにして動かして30分ほど浸けます。
媒染液に浸すと、みるみるうちに色が変わっていきます。ご覧のとおり、茶色いタマネギの皮で染めたにも関わらず、黄色く発色します。これが草木染の特徴の一つです。植物染料と媒染剤の組み合わせで、同じ染材で染めても全く違った色になります。このように、植物の成分と金属イオンが結びついて発色するのが草木染の原理なので、その工程で鉄やアルミなどの金属製品を使うと思わぬ色に発足してしまうことがあるので、それらが使えないというわけです。
【煮洗いをする】
媒染液に30分ほど浸したあと、よく水洗いをしてから、余分な染料や媒染剤を取り除くため、8リットルの湯(40度前後)に少量の中性洗剤を加え、10分ほど加熱しながら煮洗いをします。
【乾燥、仕上げ】
煮洗いした布(生地)をよくすすいでから脱水し、シワにならないように広げて陰干しすれば完成です。とてもいい色になりました。上がシルク(絹)で下がコットン(綿)です。
【追記】
ご覧のとおり、シルク(絹)とコットン(綿)では色が違います。これは繊維にタンパク質が含まれるか否かによって違いが生じます。というのも、植物染料はタンパク質と結びつきやすいという性質があり、タンパク質でできているシルクやウール(羊毛)などの動物性繊維は染まりやすく、これを含まないコットンや麻などの植物性繊維は染まりにくいということが起こります。なので、植物性繊維には「絹化」と呼ばれる、繊維にタンパク質を付着せておく下処理をすることがあります。昔は呉汁(ごじる)や豆乳に浸したそうですが、今は専用の助剤があります。ちなみに、写真のコットン・スカーフも絹化の下処理をしているので、何もしないよりも濃く染まっています。また、精練や煮洗いの場合も中性洗剤ではなく、専用の助剤を用いることで堅牢度の高い作品にすることができます。
今回、紹介したのは、あくまで家庭のキッチンでできる方法ですが、それでもとてもきれいに染めることができます。ぜひ!! チャレンジしてみてください。
この一日体験教室では身近な染料植物である玉ねぎの皮を使って色見本を作りながら草木染の基本を学んでいただきます。このワークショップで用いるものの多くが食品由来であったり、身近な道具であったりするので、受講後には自宅のキッチンでも草木染を楽しんでいただけます。まずはこの体験教室で草木染の魅力を知ってください。
媒染液の質問です。
染め液に明礬を振り入れる方法を、見たことがあります。
私は以前貴社の方法で、染め液から出して水洗いしてから媒染液に浸し、また染め液
水洗い媒染液と繰り返してから風乾しました。
染め液に直に明礬を入れても、染まりますか?
木漏れ日さん、おはようございます。
コメントありがとうございます。
早速ではございますが、「染め液に直に媒染剤を入れる方法」について
私も見たことがあります。この方法もあるのかもしれませんが、私たちは先媒染か後媒染、ときに中媒染という方法にしていますが、染め液に直に媒染剤を入れる方法は用いていません。
その理由は色ムラの原因になったり、染液が無駄になるように思うからです。
ただレーキ(染料に沈殿剤を投入し、水に不溶化してつくる顔料)を作るときには、染液に直接媒染剤を入れるのことがあります。
草木染に正解や不正解はないと思うので、納得される方法で染めてみてくださいね。
な、なんと加筆されたのも気づきませんでした。重ね重ね失礼いたしました。
calさん、こんにちは。
熟読いただき、ありがとうございます。
これからも、疑問はご遠慮なくおたずねください。
もう一度読んだら、煮だした後で、ストレーナーで濾すと書いてありましたね。疑問は解決しました。お騒がせしてもうしわけございません。
玉ねぎの皮を煮ている画像の後の「タマネギの皮で染める」の画像では玉ねぎの皮が写っていません。もしかして玉ねぎの皮で染めるのではなくて玉ねぎの皮から抽出した染液で染めているのでしょうか。その工程では画像にはないですが、ざるで濾すとか熱いのを我慢して手で絞るとかしているのでしょうか。
calさん、こんにちは。
おっしゃるとおりです。玉ねぎの皮から抽出した染液で染めます。
掲載分には加筆しておきました。ご指摘ありがとうございます。
今日、シャツを2枚染めてみました。途中、若干間違いましたが、何とか綺麗に染まりました。FBで参考にしたページとして、シェアさせて頂きました。ありがとうございました。
ありがとうございます!
ひとつ屋にもFB( https://www.facebook.com/hitotsuya.osaka/ )がありますので、こちらもよろしくお願い申し上げます。
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