絹と綿の染まり方には、はっきりとした違いがあります。「絹(シルク)」と「綿(コットン)」は、どちらもよく知られた天然繊維ですが、絹は主にタンパク質からなる動物繊維、綿はセルロースからなる植物繊維で、その性質は大きく異なります。
そのため、草木染で同じ植物染料を使っても、染料の種類、媒染剤、pH、温度、前処理などによって、染まり方や仕上がりの色に違いが生じます。植物由来染料の各種繊維への染着性を調べた岩手大学などによる研究でも、特定の染色条件では、毛や絹のタンパク質系繊維が高い染着性を示したと報告されています。
今回は、同じ植物染料と媒染条件を使い、「絹」と「綿」を同時に染めて、その違いを比べます。
染めるのは、同じような薄手のスカーフです。下の写真では、左が「綿(コットン)」、右が「絹(シルク)」です。
絹と綿の染まり方を比べる前に
▼ 左が「綿(コットン)」、右が「絹(シルク)」です。

▼ 綿のスカーフ。アップの写真です。

▼ 絹のスカーフ。アップの写真です。

比較実験の工程
① まずは精練をします。

精練(せいれん)とは、染色前の布や糸から、汚れ、糊(のり)、油分、加工剤などを取り除く作業です。このときは大きな鍋に湯を沸かし、中性洗剤を使って洗ったあと、よくすすぎました。
精練方法や適切な温度は素材によって異なりますが、この作業が不充分だと、染料が均一に入りにくくなり、色むらの原因になります。
② 染色をします。今回はセンダングサの染料を使います。

今回は、絹と綿そのものの違いを比べるため、綿に豆汁などの濃染処理をせず、同じ染液で同時に染色します。
実際の製作では、染料や求める色に応じて、綿と絹で下処理や染色条件を変えることがあります。
③ 媒染をします。今回は銅媒染です。

媒染(ばいせん)は、植物色素と金属イオンの働きによって、発色や染着に影響を与える工程です。媒染剤の種類によって、同じ染料でも色合いが変わります。
媒染と草木染の仕組みについては、以前のブログ『草木染の原理|媒染で色が変わる仕組み』でも紹介しています。
④ 洗浄して乾燥させれば、染色の完了です。

絹と綿の染まり方|結果と考察
上の写真では、左が「綿(コットン)」、右が「絹(シルク)」です。同じセンダングサの染液を使い、同時に染めたにもかかわらず、仕上がりの色には大きな違いが出ました。
この違いには、絹と綿を構成する物質の違いが関係しています。絹はタンパク質繊維で、綿は主にセルロースからなる繊維です。それぞれが持つ化学的な性質や、色素、媒染剤との結びつき方が異なるため、同じ条件でも染着量や発色に差が生じます。
今回の条件では、綿よりも絹のほうが濃く染まりました。ただし、絹が常に綿より濃く染まるわけではありません。染料の種類、媒染剤、pH、温度、時間、前処理によって結果は変わります。
また、色が濃いことと、洗濯や光に対する堅牢度が高いことは同じではありません。堅牢度は、染料と繊維の組み合わせごとに試験して確認する必要があります。
写真の右側にある毛糸も、同じ染料で染めたものです。今回の実験では、ウールも絹と同じタンパク質繊維であるため、絹に近い色に染まりました。
僕は染色を始めたころ、この違いをとても意外に感じました。日常生活では、綿よりも絹のほうが扱いにくいという印象があったからです。しかし、草木染では、絹のほうが比較的少ない工程で濃く発色する場合があります。
綿を濃く染めるための下処理
綿を草木染で濃く染める方法の一つに、「豆汁(ごじる)処理」があります。大豆から得たタンパク質を綿に吸着させ、植物色素が染着しやすい状態を作る伝統的な下処理です。
一般的には、水に浸した大豆を砕いてこし、薄めた液を布に含ませてから乾燥させます。ただし、タンパク質を均一に付着させるには経験が必要で、処理方法によっては色むらが生じやすくなります。
天然染料による綿織物の濃染処理を調べた研究では、豆汁への浸漬はムラになりやすく、両面から刷毛で塗る方法のほうが適していたと報告されています。
綿の濃染処理には、豆汁だけでなく、タンニンを使う方法もあります。お茶の水女子大学による研究では、タンニン酸による前処理によって綿へのアルミニウムの結合が増え、その結果としてラック色素の染着が高まることが示されています。
つまり、綿が草木染で染まらないのではなく、絹とは異なる下処理や染色設計が必要になるということです。