草木染のイメージは大切にしたい産業
私たちが目指しているのは、工芸でも工業でもない、そのあいだにある“古くて新しい製品のカタチ”です。人の手と構造が可視化された器械。そして時空を越えて検証できるAI。その融合によって、単なる大量生産品ではない、根拠と構造を持った製品を生み出そうとしています。
ひとつ屋では“草木染を産業にしたい”と真剣に考えています。それは、伝統工芸やハンドクラフトの作家などとしてではなく、私たちが目指すのは“産業としての草木染”です。しかし、これを実現するためには、一定程度の生産性や経済性(コスト)が求められます。
その一方で“草木染がもつイメージは大切にしたい”とも考えています。例えば、それは天然染料らしい色味だったり、手仕事が醸し出す雰囲気だったりしますが、このことと“生産性”や “経済性” を両立させるのが非常に難しい課題です。
あちらを立てればこちらが立たず――。この問題を解決するために、いろいろと考えました。そしてヒントとなったのが、とある博物館で見た“明治時代の機械たち”でした。
道具から機械への発展途上にあるもの
「殖産興業(生産を増やし。産業を興す)」をスローガンに近代化を推し進めた明治時代の日本。非常に短期間に鉄道や道路、電話や郵便などのインフラを整備し、これをもとに製鉄や製糸に代表される官営模範工場を創設して産業の近代化を図りました。
と、まるで日本史の授業のようであり、近代化に邁進する明治日本が勇ましくさえ感じます(その内容や結果については賛否が分かれるところです)が、実際に当時の機械を見ると、とても素朴で、楽器に例えると“アコースティックな”という表現がピッタリな雰囲気です。
それは“道具から機械への発展途上にあるもの”で「器械」とも表されました。ですから、器械は人間を排除する存在ではなく、人の手とかかわり、細かな調整を繰り返すことで、温かみのある製品を生みました。まさに器械は人と共に働く立場であり、なかでも生糸や綿糸にかかわる器械は、その人間臭い動きから生み出されるされる雰囲気に「私たちの問題を解決してくれるのは、これだ!」と直感しました。
▼ 製糸の器械(繰糸機)の線画(1897年、Public domain)/出典:Scammell’s Cyclopedia of Valuable Receipts(Henry B. Scammell, 1897)/Wikimedia Commons

古い器械と先端AIの融合
ところが、どこを探しても当時の器械はありません――。あったとしても、すべに壊れていたり、部品が失われていたり⋯と、もう使い物にはならない状態でした。そこで大活躍してくれたのがAIでした。
当初は器械の検索をしていたのですが、次第に器械の修理法や代替部品の調達法、さらにはその器械で作られていた製品までを調べてくれました。世界各地にある似たものを調べ、その歴史的背景を比較し、科学的構造を確認しながら検証を重ねてくれました。
それは一本の繊維の長さ、強度、植物の生育条件、加工工程、過去の道具の構造まで⋯。それらを地理的にも時代的にも横断しながら「今の日本で成立するか」「器械化できるか」というものでした。
その検証の過程で共に考え、悩んでくれたAIは、もはや! ひとつ屋のスタッフの一員です(笑)。
AIによる思考の整理と検証、そして古い器械による物づくり――。両方は対立する関係ではありません。いわば、どちらも“時代の寵児”であり、理解できるものとして捉えれば、今までにない製品が作れそうです。