草木染と自然布(山布)の素材を育てる農園
ひとつ屋染織農園は、草木染や自然布(山布)づくりに必要な素材を、自らの手で育てるために始めた農園です。2018年より三重県伊賀市に拠点を置き、染料となる植物、繊維を得るための作物、そしてそれらを支える樹木や里山の植物を管理しています。私たちの農業は、収穫量や効率だけを目的としたものではありません。染めるため、織るため、そして「創り続ける」ために、どのような素材が必要なのか──その問いから、栽培の内容や方法を考えています。
ひとつ屋染織農園の目的は、食料生産を主とした一般的な農業とは少し異なります。私たちが目指しているのは“染料や糸、布を安定して生み出すための農業”です。そのため、畑では藍や紅花といった草木染の染料植物に加え、桑や綿、苧麻など、繊維を得るための植物も育てています。さらに、里山に自生する葛や草木にも目を向け、栽培と採取の境界を行き来しながら素材づくりを行っています。こうした取り組みの先にあるのが、草木染の染料植物栽培と、里山の素材から生まれる“自然布(山布)”という、ひとつ屋独自の布づくりです。

「無農薬ですか」「自然農法ですか」と尋ねられることもありますが、ひとつ屋では特定の農法にこだわってはいません。自然と人との距離を丁寧に測り、必要なときに必要な手を入れる――。その判断を積み重ねることを大切にしています。農薬や肥料についても、使う・使わないを思想で決めるのではなく、作物の状態や畑の状況を見ながら、最小限で用いる判断をしています。目的は “きれいな言葉” ではなく、長く続く環境と仕事をつくることです。
※ 詳しくは『農薬についての考え方』をご覧ください。
日本の里山は、人が関わることで維持されてきた環境です。ひとつ屋染織農園もまた、放棄耕作地を再生し、草を刈り、木を植え、畑として手入れを続けることで成り立っています。自然に任せきりにするのでも、人の力で押し切るのでもなく、自然の力と人の仕事が重なり合う場所としての農園。そのあり方を模索し続けています。
ひとつ屋染織農園は、まだ発展の途中にあります。農業技術も、素材づくりも、試行錯誤の連続です。それでも、素材を育て、染め、織り、形にし、使い続けてもらう――。その循環を現実のものとして積み重ねていくことが、私たちの目指す「持続可能な産業」につながると考えています。この農園で育てている植物や取り組みについては、各ページで詳しく紹介しています。興味のあるところから、ゆっくりご覧ください。
※ 詳しくは『持続可能な物づくり』をご覧ください。
放棄耕作地の再生
ひとつ屋染織農園の出発点となった、畑の再生と開墾の記録。
放棄耕作地の再生は、ひとつ屋染織農園の出発点です。後継者不足と高齢化で一度は打ち捨てられた耕作地にはススキや笹竹が生い茂り、これを再生するには雑草を刈り、その根を取り除く作業から始める必要がありました。それは “再生” というより、もはや “開墾” に近い重労働です。こうして再び畑として使えるようになった場所に、私たちは藍や綿のタネをまき、桑の苗木を植えて、染織にかかわる植物を栽培する【ひとつ屋染織農園】を始めました。
※ 詳しくは『放棄耕作地を畑に戻す vol.1』をご覧ください。
▼ 放棄耕作地の再生。一面を覆いつくす笹竹を刈るところから作業は始まりました。

▼ すべての笹竹を刈ったばかりの新しい圃場

桑の栽培(養蚕)
国産シルクづくりのための、養蚕用桑の栽培。
こうして再生した畑に、まず植えたのが養蚕用の桑でした。以後、試験的に続けてきた養蚕も、2023年度からは本格的にスタートすることになりました。放棄耕作地を再生し、桑を栽培するところから始めた国産シルクづくり――。ひとつ屋では、近代以前の製法で素朴な絹製品を作ることを目指しています。
※ ひとつ屋の養蚕事業に関しては『ひとつ屋シルク』をご覧ください。
▼ 桑畑の成長の様子と、現在行っている養蚕の様子。



繊維の宝石――海島綿
ひとつ屋染織農園では、養蚕のための桑の栽培と並行して、開園当初から綿を育てています。現在、注力しているのが“繊維の宝石”と称される「海島綿(Sea Island Cotton)」の栽培と製品化です。明治時代に日本で発明された「ガラ紡」による糸づくり、さらには、その糸を用いた製品づくりに取り組んでいます。
※ 「ガラ紡」に関しては『ひとつ屋に「ガラ紡」がやってきました!』をご覧ください。
※ 「ガラ紡糸」に関しては『ガラ紡糸(手紡ぎ風糸)』をご覧ください。

苧麻や葛などの自然布(山布)素材
自然布(山布)へつながる繊維素材(栽培と採取)。
養蚕のための桑、和綿・洋綿の栽培のほかに、ひとつ屋が取り組んでいるのが苧麻(ちょま)の栽培です。日本で木綿が普及する以前には、“大麻や苧麻(ちょま)、赤麻(あかそ)、葛、藤、楮(こうぞ)、桑、科(しな)、芭蕉、於瓢(おひょう)などの繊維で織られた布”が用いられていました。そこで、ひとつ屋では里山で苧麻を集めて栽培し、その製品づくりに取り組んでいます。
※ 詳しくは【ひとつ屋 自然布(山布)研究所】をご覧ください。
▼ 苧麻の畑とその繊維。


葛(採取)
現在、苧麻のほかにも、里山周辺で簡単に手に入る葛(クズ)から糸を作り、織って製品化(葛布)することにも取り組んでいます(葛は栽培はしておりません)。
▼ 河川敷に生える葛と、葛からとった繊維。



染料植物
草木染のために栽培している“染料となる植物”。
繊維がとれる上記の植物とは別に、染料となる植物も栽培しています。
藍(タデアイ)
最も耕作面積が広いのが藍(タデアイ)です。7月の初旬から収穫が始まります。

マリーゴールド
2024年から本格的に栽培を始めたマリーゴールド。

レモングラス
2023年から本格的な栽培を始めたレモングラス。

番外編(里山染料)
里山にある染料植物を整理していく構想。
栽培しているわけではないのですが、伝統的な染料として有名な植物が里山には数多くあります。今後、それらを整理し「里山染料」として、皆様にお届けできるようにしたいと思っています。
日本茜(ニホンアカネ)
山辺に自生する日本茜(ニホンアカネ)


小鮒草(コブナグサ)
小鮒草で染めた色は日本の伝統色のひとつです。

ひとつ屋染織農園の展望
素材づくりの農業を長く続く仕事として積み重ねていくために。
ひとつ屋染織農園では、ここ伊賀の気候風土に寄り添いながら、これからも染織にかかわる植物の栽培種類を増やしていきたいと思っています。まずは、まだまだ未熟な農業技術の習得に精進し、さらには栽培している染織植物の収量を上げ、“持続可能な農業と物づくり”を目指していきます。
※ 農薬・化学肥料に関する考え方は『農薬と化学肥料に関する考え方』をご覧ください。
ここで紹介している内容は、ひとつ屋染織農園での取り組みの一部です。それぞれの植物や素材については、今後さらに記録を重ね、必要に応じてブログなどでも紹介していく予定です。