葛飾北斎の『富嶽三十六景』にちなんで始めた『あべのハルカス 三十六景』。第十四景となる今回は、工房のほど近くにある史跡「松虫塚(まつむしづか)」から見たハルカスです。
塚の横を通る道を「松虫通り」といい、近くには「松虫」という駅もあるほど、「松虫」のは知られているにもかかわらず、その名の由来となった「松虫塚」が当地に存在する理由は定かでありません。
↓「松虫塚」です。
美しい声で鳴きながら短い命を燃やす鈴虫(松虫)を哀れに思い、旅人が塚を建てたという説があったり、後鳥羽上皇に仕えた松虫と鈴虫の二人の女官が、法然上人が土佐に流されたのち、当地に隠棲したという説があったり、さらには、昔むかし、ある人が友と二人で阿倍野の松原を通ったとき、その一人が麗しく鳴く鈴虫(松虫)の声に誘われるように草むらに入り、それを心配した友が捜しに行くと草のしとねに伏して亡くなっていたらしく、これを泣く泣く葬った塚であるなどと、さまざまな説があるようです。
どの話にも“世のはかなさ”のようなものが感じられ、静けさと一抹の寂しさを覚えます。
湿気た夏の夜空を照らし、そびえ立つ「あべのハルカス」――。雲にまでに届く照明は、松虫塚に伝わる話の諸とは対照的な風景で、まるで“バベルの塔”のように、人の力の偉大さと愚かさを感じさせられます。