葛飾北斎の『富嶽三十六景』にちなんで始めた『あべのハルカス 三十六景』。第十景となる今回は、ハルカスの南に延びる「熊野街道(くまのかいどう)」 からの眺めです。
熊野街道とは、京都から淀川を船で下り、大阪の天満橋付近に上陸してから四天王寺を過ぎ、あべのハルカスの下を通り、住吉を経て堺を南下し、和歌山県に入って紀ノ川を渡り、幾つもの峠を越えて熊野三山(熊野本宮大社、熊野速玉大社、熊野那智大社)へ向う道のことです。
その途中には、熊野の遥拝所である幾多の王子社(九十九王子/くじゅうくおうじ)があり、かつて人々は旅の途中にこの社で奉幣し、そこで休憩しながら熊野を目指したそうです。
その一つが、あべのハルカスのすぐ南にある「阿倍王子神社(あべおうじじんじゃ)」で、先日は夏季氏子大祭が斎行されました。大阪市内では珍しく、戦禍を免れた地域の多い阿部野の細い路地を大きな山車がお囃子とともに引かれていきます。
かつては天皇や上皇が熊野へ通った街道――。今も古い家並みと大きな山車が似合う町ですが、その向こうに聳え立つ巨大なハルカスが印象的な風景を見せてくれています。