かつて日本を代表する輸出品であった絹(生糸)。国策のもと、安定した量と質を保つことを余儀なくされた日本の蚕(繭)は、“糸を採るためだけ”に改良が重ねられ、もはや自ら桑の葉を探して食べることさえできません。より多く、より早く、より美しく――、大量生産の原理のもとに改良された蚕は、まるで工業製品のように扱われました。
これに対し、タイの蚕は野生種に近いもので、繭の色や大きさが品種改良されたものとは異なります。自然の状態に近いため、繭にも色があり、不必要に大きくもありません。また、一つの繭から採れる糸の長さも、日本のものが約1500mにもなるのに対し、タイの蚕は約700mです。
▼ 左がタイの繭、右が日本のものと同種の繭。
上の写真は、左がタイシルクの繭、右が日本のものと同種の繭ですが、始めから白く(後の工程で漂白作業が不要)、しかも倍以上の糸が採れる蚕の繭が、いかに効率的に品種改良されたかが分かります。
しかし、糸の長さの違いは、その太さの違いによるもので、糸が太い野蚕は、光の反射面が大きく、より複雑であるため、タイシルクがもつ独特の輝きを生み出せます。これがタイシルクの輝きの秘密です。
▼ 繭を熱湯の中に入れ、十数本の糸を束ねて素朴な座繰機で糸を繰る。
▼ できた糸は染められ、素朴な織り機で布になっていく。